DJM-S11は特徴的な機能が追加されているのはもちろん、PADの大きさや塗装の質、フェーダーの耐久性など細部までアップグレードが行き渡っている。
Pioneer DJの新たなプロフェッショナル向けスクラッチスタイル2ch DJミキサー「DJM-S11」の発売を記念して、2020年11月9日にDOMMUNEにて開催されたストリーミングイベントPioneer DJ presents DJM-S11 Launch Streaming「TURN IT UP TO 11」。世界的なDJバトルであるDMC、Redbull 3Styleの歴代日本チャンピオンが終結したDJパフォーマンスに先立ち、DJ KENTARO、DJ IZOH、DJ IKU、そして司会進行にラッパーのKIN DA SHER ROCKらが参加したトークセッションが行なわれた。Pioneer DJのDJミキサーの進化や歴史にも触れながら、約1時間にわたって行なわれたトークショーの中から、DJM-S11について語られた部分を紹介する。
—— KIN DA SHER ROCK:DJM-S11に関して、まずはみなさんのファーストインプレッションをお聞かせください。
KENTARO: 何と言っても、まず液晶画面(=タッチディスプレイ)が付いたっていうことですね。 DJM-909とDJM-S9を足したようなイメージですけど、カラーのタッチパネルになっていて、XY軸で感覚的にエフェクターを触れることも出来たりします。
—— KIN DA SHER ROCK:エフェクターをその画面で?
KENTARO: TOUCH FXを使うと、カオスパッドのようなプレイが出来たりしますね。あと、WAVEFORM。曲の波形が液晶画面で縦に流れてくるので、ここで視覚化しながらピッチ合わせも出来ます。それから、パッドも少し大きくなったり、表面の塗装も変わったり。細部までグレードアップされたという印象です。それから、SMOOTH ECHO。これはすごく面白い機能だなと思っていて、クロスフェーダーを切ったり、縦フェーダーを動かしたり、曲をロードするボタンを押したり、その瞬間だけエコーがかかってくれるので、スクラッチしながらカットインで曲を入れたりする時にすごく便利だったりしますね。
—— KIN DA SHER ROCK:SMOOTH ECHOはBPMも合わせられるのですか?
Pioneer DJ Staff: オートでもタップでも合わせられます。
—— KIN DA SHER ROCK:次はIZOHくん、お願いします。
IZOH: SCRATCH BANKとかも面白いですよね。 普通に2ターンテーブルでミックスしている中で、SCRATCH BANKにスクラッチするためのネタを入れておいて、それをSHIFTキーとSAMPLERボタンを押して急に呼び出せる。今まではスクラッチをしたいなと思ったら、曲を一度変えたり、スクラッチするためのネタをロードしないといけなかったのが、そういった作業が要らない。
KENTARO: サンプラーみたいな感じの使い方ですよね。いつでも呼び出せるというか。
IZOH: そう。いつでもスクラッチネタを呼び出しやすくなった。さらにSCRATCH BANKからスクラッチネタをロードして、スクラッチするじゃないですか。その後、元の曲にすぐ戻れるのがすごく便利ですね。
Pioneer DJ Staff: SHIFTボタンと空いているパッドを押してあげると、前の曲に戻る仕様になっています。
IZOH: そうそう。スクラッチからすぐ前の音(曲)に戻れるっていうのは面白いですよね。
Pioneer DJ Staff: 次の曲を準備して、まだ1分ぐらい時間があるなっていう時に、パッとSCRATCH BANKを使ってスクラッチをする。というようなシチュエーションで使っていただけます。
IZOH: 急にスクラッチをしたくてうずうずしちゃった時に、良いかもしれないですね。
—— KIN DA SHER ROCK:次はIKUさん、お願いします。
IKU: ファーストインプレッションとしては、DJM-S9は(バトルミキサー界の)ベンツなんですけど、もうちょっとこうだったら良いなっていうところもやっぱりあったんで。 例えば、DJM-S9だと、HOT CUE やSAMPLER を使う時、ボタンを押して切り替えると、右左両方ともモードが変わってしまうけど、DJM-S11は、右はHOT CUE、左はSAMPLERとか、セパレートして機能が使えるっていうのがまず一つ大きい。もう一つは、マッシュアップ機能ですね。僕はマッシュアップが大好きで、インストにアカペラとか、曲のアウトロとかにアカペラを乗せたりとか、クラブプレイでも結構やるんですよ。それが今までは2チャンネルまでしか出来なかったのが、3チャンネル(=デッキ3)、4チャンネル(=デッキ4)と出来るようになったんで、この進化は自分にとってかなりプラスです。
—— KIN DA SHER ROCK:(4チャンネル分)同時に音が出せるっていうことですか?
IKU: 同時に出せちゃいますね。
—— KIN DA SHER ROCK:ここでPioneer DJさんから、DJM-S11の新機能について説明をお願いします。
—— COMBO PAD ——
Pioneer DJ Staff: 今、言いたかったワードがかなり出てきてしまったので、重複した説明になる機能もあるんですが改めて。
まず、パッドのところで、IKUさんが左右それぞれにPADモードを選べると紹介して下さいましたが、COMBO PAD機能と言って、例えばHOT CUEを押しながらSAMPLERを押すと、上4つのパッドにHOT CUE、下4つのパッドにSAMPLERがアサインされ、8個のパッドを上下分けて設定することが出来ます。パフォーマンスで使う人は、ホットキューをたくさん打ったりすると思いますが、クラブプレイとかであれば、基本的にHOT CUEは1個、2個しか打たない。でも、SAMPLERもよく使うという場合に、今までは毎回モードを切り替えないといけなかったのを、切り替えをせずに使えるようになりました。
—— KIN DA SHER ROCK:それがCOMBO PADっていう機能ですね。
—— SMOOTH ECHO ——
Pioneer DJ Staff: 次はKENTAROさんのお話にもあったSMOOTH ECHOです。例えば、クロスフェーダーを切る、縦フェーダーを下げる、HOT CUEでパッドを叩く、曲をロードするなどの動作に対してエコーをかけることができます。DJM-S9は、エコーをかける時はエフェクトレバーを使っていましたが、SMOOTH ECHOは設定した動作をすることによって、いつでもスムーズにエコーが使えるという機能です。
—— DECK3/4コントロール ——
あとは、これはIKUさんのお話に出てきましたが、DECK3/4コントロールですね。 DJM-S11は2チャンネルのミキサーですが4つのデッキが使えて、単純に再生するだけでなく、その場でマッシュアップを作って、更にそのマッシュアップのミックスも可能です。例えばデッキ1がアカペラでデッキ2がビートでマッシュアップを作ります。ここでミックスできるデッキ(デッキ1とデッキ2)は埋まってしまっていますがデッキ2のビートをDECK MOVEというボタンを押して、デッキ3に移すことが出来ます。さらにDUAL DECKを押すと、デッキ1とデッキ3が同時にコントロール出来ます。今度は空いたデッキ2に曲を入れて、さらにミックスもパフォーマンスも出来るという。ちょっと複雑なんですけど、使いこなすとかなり新しいことが出来るようになると思います。
—— KIN DA SHER ROCK:瞬間的に曲が作れちゃうみたいなことなんですね?
Pioneer DJ Staff: そうですね。もちろん事前に仕込んでいくのもありだと思いますし、瞬間的な思いつきでのミックスも可能です。
—— TOUCH FX & FADE SYNTH ——
次はTOUCH FXです。先ほどKENTAROさんが仰っていましたが、タッチディスプレイを触ることで感覚的にエフェクターが使えます。あとはFADER SYNTH。この機能はDJM-909、DJM-S9から引き継がれた機能で、DJM-S11にはFADER SYNTHにAUTO SCALEという機能が搭載されました。これはプレイ中の曲のKeyがSeratoソフト内で解析されていれば、そのKeyにあったシンセの音域が出るという機能です。縦フェーダーを動かすと音階が変わるんですけど、適当に弾いても音痴にならずにパフォーマンスが出来ます。これは非常に便利な機能で、かなり楽しいです。
IZOH: その機能はヤバかったですね 。最初、イジっていた時に「あっ、これはDJM-S9と違う?!」って気付いて。DJM-S9では自分でKeyを調整しないといけなかったのに、勝手に合わせてくれる。
Pioneer DJ Staff: そうですね。自動で合わせてくれるのですごく便利で、瞬時にパフォーマンスが出来ます。「ちょっと時間が余ったから、これで遊ぼう」みたいな感じでも簡単に使えます。
IZOH: たったそれだけの機能なんですけど、これを使って凄いことが出来るっていうのがすぐに思い付きます。
—— KIN DA SHER ROCK:今、ご説明していただいた、COMBO PAD、SMOOTH ECHO、DECK3/4コントロール、TOUCH FX、それからFADER SYNTHのAUTO SCALEが、S11に追加された主な機能ですね。
IZOH: ちなみに質問なんですが、FADER STARTという機能は前からあったんですよね?
Pioneer DJ Staff: そうですね。FADER STARTは元々CDJのための機能でして。 フェーダーの動きによってCDJのスタートボタンが反応して勝手に再生されるという機能です。フェーダー操作でCDJを再生することができるので、カットイン的に使えます。
IZOH: DJM-S11だとターンテーブルでも出来るじゃないですか? 俺はすごく好きな機能です。
Pioneer DJ Staff: 先程、少しリハーサルを見させていただいて、FADER START機能を「こう使うんだ?」って思いました。流石だなって。
IKU: あと、KEY SYNCですね。KEY SYNCもタッチディスプレイで出来るのがいいですね。KEY SYNCを使うと、普通にミキシングするよりも綺麗にミックス出来ますね。それから、クロスフェーダーの設定がさらに細かく出来るようになっている。DJM-S9の時よりさらに細かく出来るようになったんですよね?
Pioneer DJ Staff: そうです。CROSSFADERのカットラグ調整や、CROSSFADER SMOOTHING(クロスフェーダーを動かしたときの急激な音量変化の緩和機能)を変更出来るようになりました。
IZOH: 結構細かい差だけども、スクラッチをやっている人だと分かる。音の立ち上がりみたいなのとか。
IKU: あと、地味に助かっているのが、Serato DVSの再生モードのRELモードとINTモードの切り替えがタッチパネル上で出来る事ですね。曲を単純に聞きたい時とかは、いちいちコントロールヴァイナルに針を落として再生したり、パソコンを触らなくても、聞きたい時に切り替えてINTモードで聞ける。一番使えるのは、DJの転換の時かな? INTモードに切り替えて、次のDJに交代する時とかは楽ですよね。
IZOH: 使い込みがまだまだ完璧ではないので、マッシュアップとかまだ使いこなせていない機能もありますが、TOUCH FXを格好良く使いたいですね。皆これを手にした人は、そこを考えた方が良いと思います。パッドとエフェクトレバーの操作でパフォーマンスとして動きを出して、プラスTOUCH FXの使い方っていうのが、追求しがいがあって良いかなって。自分のプレイスタイルの問題ですけど、つまみとか細かいボタンを押すのはあんまり好きじゃなくて。TOUCH FXを使ってエフェクトとか、FADER SYNTHを弾くとかのほうが、見た目的にも動きが出るんで。やっぱり、そういう機能をこれから頑張って覚えたいですね。
—— KIN DA SHER ROCK:最後に改めて、KENTAROさんのお勧めの機能を教えてください。
KENTARO: やっぱり、DECK3/4を使ったマッシュアップですね。 ようはターンテーブル2台でミックスしている曲を、1つにまとめられて、それをすぐにジャグリングとか出来るっていうのは、すごい画期的だなって思っていて。例えば、自分で録ったラップとトラックをその場で2枚使い出来るっていうのも、すごく斬新なアイディアだし。これから追求していきたいですね。
—— KIN DA SHER ROCK:DJM-S11は発売されてまだ3週間ですけど、そこまで掘り下げていらっしゃるのは流石ですね。
IZOH: 使いこなせるかどうかは、また別問題ですけどね(笑)。
—— KIN DA SHER ROCK:ちなみにクラブプレイとかする時も、IKUさんとかは自分のDJミキサーを持っていくっていう感じですか?
IKU: 僕はDJ力を上げるためにも、現場にあるもの、与えられた条件で最高のパフォーマンスをするっていうのが信条で。自分を鍛えている部分もあるんですけど。ただ、しっかりしたセットプレイとかショウケースだったりする時は持ち込みますね。
—— KIN DA SHER ROCK:なるほど。じゃあ、今日は皆さん、自分のDJM-S11を使われるわけですか?
IKU: その必要はなくて、自分の設定した内容を、どのDJM-S11にもロードすることが出来るので。
Pioneer DJ Staff: パソコンを繋げば、エフェクト等が自分の設定になるという感じです。
—— KIN DA SHER ROCK:ちょっと疑問だったんですよ。みんな、一回一回付け替えてやるのかな?と思っていて。
IKU: 良い質問でしたね(笑)。
—— KIN DA SHER ROCK:なるほど、納得しました。どうもありがとうございました。