DJ、及び音楽プロデューサー。神奈川県出身。高校時代から20代前半までパンク~ロックバンドでのギタリスト経験を経て、1989年にアシッドジャズの洗礼とともにDJカルチャーへ没入する。1994年よりChari Chari名義で音楽制作も本格的にスタート。UKのレーベル、Pussyfootよりリリースを重ねる。真空管、MIX、BLUE、WEBなどの都内クラブで活動を続け、1999年Chari Chariとして、あらゆる音楽体験を昇華した1stアルバム『spring to summer』を発表。以降、リリース作品やリミックスは多岐に渡る。2002年にリリースされたChari Chariの2ndアルバム『in time』からのシングル・カット「Aurora」は、世界各国で20種以上のコンピレーション盤にライセンスされ、今でもクラブやラジオでプレイされる不滅のクラシックとなった。
2003年より日本が誇るインディペンデント・レーベルCRUE-L内に、自身のレーベル“Seeds And Ground”を立ち上げ、「Aurora」制作時のパートナーであるDSKこと小島大介と共に、ミニマル・アコースティック・ギター・デュオAurora Acousticを結成、2004年秋デビュー・アルバム『FLARE』、2006年『Fjord』をリリース。本名Kaoru Inoueとしては初となるダンス・オリエンテッドなアルバム『The Dancer』を2005年夏にリリースした。その後、レーベルとして独立、2010年にKaoru Inoue名義で発表した『Sacred Days』以降、PCによるライヴセットもスタートした。またデビュー時期も近く、長年に渡りお互いに影響を与え合ってきたアーティストCALMの提唱による有機的UNITY=Cosmic Blessing Ensembleに参加。2013年にFuji Rock Festivalはじめ、4カ所の野外フェスでライブをおこなった。2014年、12年ぶりにChari Chari名義を復活させ、ライブ・バンドとして再生。さらに2016年にChari Chariとしては14年ぶりのアナログリリースとなる「Fading Away / Luna de Lobos」が大きな話題となった。2018年はKaoru Inoue名義にてアナログLP『Em Paz』をポルトガルのレーベルGroovementより発表。ダンスの狂騒から離れ、深くチルアウトしていくオーガニックなサウンドになっている。キャリア30年を迎えるその音楽性は先鋭と普遍を往来しながら、現在でもなお輝き続けている。
まず、PLX-1000をスタジオに導入されたきっかけを教えてください。
去年の後半にDJミックスを録って提供するっていう仕事が、何回か立て続けにありまして。以前は自宅のスタジオで録音したりするとかほとんど無かったんですけど、やってみたら結構新鮮で。けど、実はそれまで使っていたターンテーブルが、もともと中古で手に入れたものだったというのもあり、少し調子が悪くなっていたので、買い換えたいなと思っていて。もう一つの理由は、去年、今の家に引っ越したんですけど、それからまたレコードを聴く頻度が高くなって。それで新しいのを欲しいなと思って調べてみたら、Pioneer DJから良さそうなのが出ているなって。
実際にPLX-1000を導入してみて、今まで使っていたターンテーブルとの違いは?
最初の音の立ち上がりが早いですよね。それから、ターンテーブル自体の重量があるので、非常に安定している感じがします。
機能的にはテンポコントロールの設定が3段階(±8%、±16%、±50%)あり、電源とオーディオのケーブルが着脱可能といった特徴がありますが、そのあたりの機能はいかがですか?
テンポコントロールはそれほどまだ使っていませんが、サンプリングのために使う時とかに、可能性は広がりますよね。ケーブルに関しては、今までのターンテーブルには無かったので、画期的だなっていう感じはあります。
PLX-1000の導入と同時に、Pioneer DJがナガオカと共同開発したカートリッジ「PC-X10」を使い始めたということですが、こちらは使ってみていかがでしょうか?
以前使っていたカートリッジと聴き比べたら、出力が大きいというか、感度が高い印象がありますね。
出音が大きいということですか?
そうですね。けど、下品に音がデカいわけじゃなくて、LowもHighも広いレンジで繊細に音を拾っている感じがすごくあります。
ナガオカは日本を代表する老舗のレコード針のメーカーですけど、ナガオカに対する印象は?
最近またレコードを買うようになって、ヴァイナルジャンキーに戻りつつある・・・みたいな話を、DJをやっている友達にしたら、「それだったらナガオカが良いんじゃないの?」って勧められたことがあります。ナガオカっていうブランドに関しては、クオリティが高いっていうイメージがありますね。歴史もあるので、開発に次ぐ開発を続けているという感じもします。
PC-X10はナガオカとの共同開発の末、本来困難とされていた針飛び抑制と高出力で高解像度な音質の両立を実現に成功しました。
そうなんですね。音圧が高くて、針圧を重くしても、今までは絶対に針飛びしていた12インチのレコードがあるんですけど、それをデータ化するために録音したいなと思って、試しにこのカートリッジでプレイしてみたら、確かに針飛びしなかったです。それは凄いなって思いましたね。
ちなみにPLX-1000とPC-X10の組み合わせで、スタジオではどのように使っていますか?
とりあえずレコードを普通に聴いたりしています。それからDJプレイのためのレコードのデータ化ですね。あとは曲作りのために、サンプリングのために使ったりしています。
クラブでDJプレイなどをする場合は、今はやはりメインはデジタルですか?
基本的にはデジタルなので、USBメモリでデータを持っていきます。ただ、レコードも少ないですけど、10枚とか15枚とか持って行くようにしています。
最近またレコードを聴くようになったきっかけは何でしょうか?
2000年代中盤くらいから、DJのほうはデジタルにどんどんと移行していったので、一時期、ほとんどレコードは買わないようになりました。たまにレコードをデータ化するみたいな時は、ターンテーブルを稼働するんですけど、レコード自体をほとんど買っていなかったので、聴くこともほとんどなくて。けど、たまにヴァイナルオンリーな作品もあって。例えばヨーロッパ音楽で、バレアリックとか、あとスペインとかラテン系の国、それからニューエイジミュージックの新しい動きがヴァイナルと連動していて。オランダのMusic From Memoryっていうレーベルがあるんですけど、その辺りもきっかけになりました。日本人で言うと、個人的にも長年付き合いのCalmが、本当に生粋のヴァイナルジャンキーでして、彼にもいろいろと刺激されたりして、それで何となくまたレコードを買うようになりました。
そのタイミングが、ここへの引っ越しとも繋がったというわけですか?
そうですね。引っ越す時に、レコードを1000枚とか2000枚とか処分しました。それですっきりしたから、さらに買っても良いんじゃないかって思ってしまって(笑)。レコードって、音楽を聴くっていうのに純粋にハマれるじゃないですか。そういう感覚ってすごく久しぶりだったし。さらにいろいろと、今まで知らなかった音とかも知るようになって、あらためてディグの世界にも目覚めてしまった。
それは古いレコードから最近のものも含めてですか?
主に80年代以降ですね。アナログレコードがメインで製造されていたのが90年代までだと思うんですけど、80年代の音って独特のラインがあって。ジャンル的には現代音楽やニューエイジミュージックと、あとヨーロッパのトラッドミュージックとかなんですけど。ちゃんとプロデューサーがいて、シンセを使っていたり、ちょっと打ち込みを使っていたりっていうのが結構面白くて。それまで全然知らなかったので、結構、自分としては新発見でした。
去年出されたアルバム『EM PAZ』もまず最初にレコードでリリースされていますよね?
あれはポルトガルのレーベルから出たんですが、以前から何かやらないか?という連絡はもらっていて。面白く良い感じで出来そうだったので、ちょっとやってみようかって。もちろんダンスミュージックにこだわりはあるんですけど、そういうのとはまた違う、エレクトリックミュージックをやろうって。日本国内ではCDはまだ残ってますけど、海外ではCDのプレスっていうのは最初から無くて、デジタルかアナログが多い。だから、レコードをプレスするのは大前提でした。時代に関係なく聴けそうな、そういう感覚の音をレコードで出すっていう話から始まって。もちろん、(レコードをプレスするのは)コストが高いですから、利益にはならないですけど、レコードじゃないと買わないっていう人も少なからずいるので。あとは、単純に音楽を作っている側として、レコードをプレスしたいっていう気持ちはありますよね。
話を戻して、DJ機材に求めるものって何でしょうか?
やっぱり一番は耐久性ですね。あとは、ちゃんと現場の声や意見を吸い上げた上で開発されている機材は信頼出来ますよね。
ちなみに普段、USBメモリを使ってデジタルでDJする時には、基本、現場の機材はフルセットでPioneer DJの機材を使うケースが多いですか?
はい。100%、Pioneer DJですね。以前、とあるメーカーの機材を使わせてもらったことがあるんですけど、耐久性も低くて、現場ではほとんど使わない機能が盛り込まれていたりしました。それぐらいメーカーによって如実に違いが表れるんですよね。ヨイショしているわけじゃないですけど、CDJとミキサーの耐久性と精密さはやはりPioneer DJが一番です。それから、国内外に限らず、Pioneer DJの技術開発にDJの現場がついていっているっていう感じにもなっていますよね。
Pioneer DJの機材が現場を牽引していると?
そうですね。CDJを使う時も、昔はCD-Rに焼いていましたけど、今だとUSBメモリにデータを仕込んで持っていけば、ある程度の規模のクラブやDJ Barであればちゃんと機材が揃っているんで、それだけですぐにDJが出来るわけじゃないですか。やっている側も、そういう機材がデフォルトでセットされているから、とりあえずやってみようかってUSBメモリを取り入れていって。それって凄いことですよね。
DJを始められて約30年ほど経たれたかと思います。機材の変化などもあった中で、DJをやる上での気持ちやモチベーションは、昔と比べて変わったりしていますか?
自分にとって、良い意味でDJは完全に仕事なので、客観的に振り返ってみると取り組みは職人的なんだと思います。ただ、気持ちとしては昔とあんまり変わらないのかもしれないですね。 DJをやるということに関しては、この30年くらいワクワク感っていうのはずっと変わらないです。
そのワクワク感が続いている理由って何だと思いますか?
やっぱり音楽が好きなんだなって思いますね。その部分だけは全く絶えないので。去年からまたヴァイナルジャンキーみたいになって、音楽を聴いている時間がすごく長くなりました。一時期はスタジオに籠って、半日くらいずっと聴いてるみたいな。音楽を聴きながら、自分の制作のための研究というか、滋養にしているみたいなところがありますね。